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概要

 自作した小型の電圧源305型です。

 電子回路の実験において、ICの入力電圧に対する出力を測定したい場合などに信号源として微小な直流電圧が必要な場合があります。一般的な電源でも可能ですが、サイズが大きく出力電圧の調整もmVレベルで行うのは難しいです。
 また、可変抵抗で分圧する方法は簡単ですが、出力インピーダンスが高いなど性能面での不満もあります。本機はそのような不満を改善するため、小型でそれなりの精度の実現をコンセプトに作製しました。
回路について

 一般的な回路では、正負電源を使って回路を構成しますが、今回は単電源で動作できる回路を設計しました。これにより回路を簡略化することが可能となりました。

・整流平滑回路:小型のブリッジダイオードDB1で整流された電圧を電解コンデンサC1,C2で平滑しています。

・13Vレギュレータ:OPアンプ(U3)の耐圧が低いため、入力変動で耐圧を越えないよう、この回路を追加しました。12V出力のLDOのGNDにダイオード2本を入れて出力電圧を上げています。この方法はダイオードの温度特性がLDOの温度特性に加わるため、全体の温度特性が悪くなりますが、今回の用途ではあまり問題にならない部分です。
 基準電圧回路もこの出力で動かす事で、ラインレギュレーションとリップルリジェクション改善が見込めます。

・基準電圧回路:基準電圧IC U2の出力電圧を分圧し、C5でフィルタリングして基準電圧のノイズを減衰させています。C5が大きいほうがフィルタリング効果は高いですが、出力のセトリングが長くなり使いづらいのでこの程度としています。
 SW2が1V/10Vのレンジ切り替えスイッチです。VR1とVR2は、誤差を補正のするための、フルスケール調整用です。VR3はフロントパネルに出ている10回転ヘリカルポテンショメータです。

・安定化電源回路:OPアンプU3がQ1,Q2のダーリントンで構成されるパストランジスタを駆動する一般的な回路です。フルスイング出力が可能なOPアンプにより、入出力電圧差が低くても動作可能にしてあります。
 Q3,R11は過電流保護回路で過電流によりR11両端の電位差が増加するとQ3がオンし、Q2のベース電流を絞ります。これも定石回路です。

・フィードバック回路:R12~R15。普通の抵抗分圧ですが、同じ抵抗値を使う事で、温度特性の影響を抑えるようにしています。

・放電回路:出力に1000uFのコンデンサがあるため、負荷電流が少ない場合、設定の出力に下げる場合に時間がかかります。本機では定電流ダイオードD5により10mAのバイアス電流を流しています。

・アブノーマル保護:出力の逆接続や外部からの電圧印加などに備え、保護ダイオードD4,D6(一般整流用)とポリスイッチPF1を使用しています。

部品の選定
 本機で使用した主な部品について説明します。

・LMC6081(U3):旧ナショナルセミコンダクタのCMOS OPアンプです。今回のように精度が重要な場合はこのような高精度OPアンプを使用します。以前は高精度OPアンプと言うとバイポーラが殆どで、CMOSの高精度OPアンプは見かけませんでしたが、最近はこのようなICが登場しています。
 オフセット電圧のTyp.値は150uVと、本機の1VレンジでOPアンプに入力される電圧の250mVフルスケールに対して、0.1%以下の値です。また、CMOS OPアンプは入出力レンジが広い物が多く、このICは入力が-0.4Vから電源-1.4V(Typ.値)まで、出力はフルスイングです。
 精度を保ちつつ単電源で回路が構成できたのは、これら特性によるところが大きいです。

・LM336-2.5(U2):基準電圧ICです。このICが出力する安定した2.5Vを元に、出力電圧が制御されます。本機では特に調整していませんが、このICは外付け回路による出力電圧の調整により温度特性の改善が可能です。

・TA78DM12(U1):入出力間電位差が小さくても動作が可能なLDOレギュレータです。

・BOURNSヘリカルポテンショメータ(VR3):回転角と抵抗値の直線性の高いヘリカルポテンショメータでダイヤルと組み合わせる事により、所望の値に出力電圧を調整できます。一般的に高価な部品ですが、これは秋月で安価に入手が可能です。ダイヤルは個人的な好みで、回転が軽い日本抵抗器製作所の23Mに変更しています。

・コパルTM7P(VR1,2):正確にあわせこむため3回転タイプのTM7Pを使用しました。

・フジソク ATEスイッチ(SW2):基準電圧を切り替えるため、微小信号用のスイッチを使用しています。

・1%の金属皮膜抵抗:回路図で「*」のついた抵抗です。出力電圧の安定のためには温度特性が良い抵抗の使用が必要です。いかに優れたOPアンプや基準電圧ICを使っていても、抵抗の値が変動してしまうと精度が悪化してしまいます。

フロントパネル

 電源スイッチとパイロットランプ、電圧レンジ切り替えと出力スイッチ、電圧設定用のダイヤルと出力ターミナルが備えられたシンプルなデザインです。レンジ切り替えを横にしたり、ナットのデザインが良いフジソク8Cトグルスイッチを使ったのがちょっとしたこだわりですね。
筐体と内部

 出力としては1.5Wmaxなので、リードのPL-4を使いなるべく小型に抑えました。実験机でも場所をとらないサイズです。U1と発熱するQ3はシリコングリスを塗って筐体にネジ止めし、放熱しています。入出力の最悪条件でも問題がないように熱設計を行っています。
精度

 肝心の精度は上記のようになりました。誤差は1Vレンジで±0.2% F.S、10Vレンジで±0.1% F.S以内に収まっていて、目的としては十分達していると思われます。なお、測定は三和PC510です。
その他の特性

・出力制限電流:183mA(出力ショート時)

・出力抵抗:30mΩ(1V出力時の端子にて)

 どちらも問題の無い値と考えられます。

完成とその後
 自分で欲しい仕様にあわせて設計したので、2008年04月19日の完成以降、便利に使えています。他の人も結構使っていただいているようで、作った甲斐がありました。なお、2011年10月にヘリカルポテンショメータが一点接触不良になり、交換修理をしました。問題は今のところそれだけです。

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'12/11/11:アップロード
'13/22/22:回路図修正(U2の形式ミス)