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直流安定化電源 MZL PS-4の設計製作


アウトラインの決定


電子機器を製作する際に必ず必要となるものが電源です。電源は低周波
トランスを使うにしろ、スイッチング電源を使うにしろ、それなりにお金が
掛かってしまう部分でもあります。この電源を共用すればコストダウン、
省力化につながると考えられます。今回は小型アンプなど向けに電源装置を
製作することにします。以前にも同様の思想で計測器用の電源装置PS-A1を
作りましたが、出力電圧が±5V、電流も600mAと少し能力不足でした。

今回作成する電源装置はTEACのジャンクVCRから取り出したトランスを使い、
ローコストで仕上げることにします。安定化回路部分はPS-A1で使用した
三端子レギュレータではなくオペアンプやトランジスタで組むことにします。
三端子レギュレータは非常に手軽に安定化回路が作成できる反面、ノイズの
低減、ロードレギュレーションの改善が難しいという欠点があります。
今回はオーディオ用なので、上記のような欠点を解消したいと思います。
ただし個別部品で組むとこれらの改善が比較的簡単にはなりますが、
やはり作成の難易度や手間も上がると思います。


トランスの摘出




  もう修理を放棄してしまったのでトランスを取り出します。
 容量38VAとのこと。それなりにあります。調べてみると巻線が
 3組、電圧は10-0-10,3.5-0-3.5,0-40Vとなっていて、10-0-10V
 の巻線だけ太いものが使われていました。今回はこれを使用。
 銅製らしきショートリングが巻かれているのが良いですね。
 オペアンプ回路なら±15Vは欲しいのですが、ちと無理ですね。
 倍電圧整流回路等の方法もありますが面倒なので却下・・・。


電圧・電流の決定



  まず電圧を決定します。トランスの二次側AC電圧は10V、
 電圧変動は±10%、ダイオード順方向電圧降下はシリコンで
 1Vとします。また平滑後のリプル率を10%、トランジスタの
 飽和電圧を1V、電流検出抵抗での電圧降下を1Vとします。
 となると最大出力電圧は左の式から約9.4Vと求まります。
 電流容量はトランスの容量を二次側ACピーク電圧で
 割れば簡易的にもとまります。トランスの容量は38VA、
 ACピーク電圧はAC電圧のルート2倍で14Vこれが2回路で
 28V、結局電流は約1.3Aとなりました。この結果から
 大体1.3Aで電流制限が掛かるようにしておこうと思います。


基本回路の構成


まずトランスの出力をセンタータップ整流を2つ組み合わせて正負2電源を
取り出します。ここではブリッジダイオードを使います。200V,6A程度なら
たいていの場所で安価に購入が可能なはずです。この程度の定格のものを
使えば放熱関係のディレーティングを考慮入れても余裕があると思います。

次にパストランジスタは電流増幅度を稼ぐためダーリントン接続にします。
電流制限回路は定電流移行型を組み合わせます。定電流移行型とは設定した
ある一定以上の電流は出力しないように動作するものです。電流制限には
他にもありますが、オーディオ用にはこれが最適ではないかと思います。

電圧基準にはシャントレギュレータIC、誤差増幅回路にはオペアンプを
使用します。最後に高い周波数でも安定するようにコンデンサを入れます。


整流回路周囲の設計



  まずブリッジダイオードですが新電元のS5VB20を使います。
 これは耐圧200V、順方向電流6Aのものです。データシートを
 読むとフィン無しでも3.5Aまで流せるので問題ないでしょう。
 このダイオードは、例えば千石電商で150円で手に入ります。
 一般的にコンデンサで平滑する場合、充電電流が負荷電流に
 比べて大きいので余裕を持った選定が望ましいと思います。

  コンデンサはリプル率10%にしたい場合、左の式で導かれる
 との事なので、5000μFですが、大きいほど安定しますので、
 秋月電子で一本100円、3本200円で売っている4700μFのものを
 2パラで使います。これならハイコストパフォーマンスです。
 これの耐圧は35Vあるので全く問題ないと考えられます。


パストランジスタ周囲の設計



  パストランジスタは前述したダーリントン接続にします。
 これは一般的にパワートランジスタの電流増幅率があまり
 高くないからで、殆どの電源はそうなっていると思います。
 今回はトランジスタの電圧降下をできるだけ下げたいので、
 PNP,NPNを組み合わせたインバーテッドダーリントン接続と
 します。トランジスタはMZLの在庫の中型トランジスタである
 東芝製2SB1642,2SD2531(コンプリペア)を使います。双方
 耐圧60V、コレクタ電流4A、許容損失25Wで十分な仕様です。
 千石電商にて両方とも60円で入手することが出来ます。

  ドライバー段、及び電流制限回路には小信号トランジスタ
 を使います。ポピュラーな2SA1015,2SC1815を採用します。
 このトランジスタは製作例などではいたるところに使われて
 いるので、まとめて買っておくといいでしょう。ちなみに
 千石電商では一個30円、10個なら100円で売っています。


その他の回路部品の選定



  制御回路のオペアンプは在庫にある東芝TA75358に決定。
 ところがこのオペアンプはゲイン20dB以上推奨とのこと。
 今回の回路ではゲイン約10dBなので、TA75358は止めて、
 ナショナルセミコンダクターのLM358を採用することに。
 それほどの高性能は狙ってないので汎用品でいいのでは
 ないかと思います。ちなみに秋月電子で一個50円です。
 基準電圧源には東芝のTA76431を使用します。千石電商で
 50円で売っています。単に私が東芝で揃えたいだけなので
 秋月の新日本無線製セカンドソースNJM431なら30円です。
 基準電圧源にフィルタを付加し、ノイズを除去します。


設計した回路




以上のことを踏まえて設計したのが上記の回路です。
一般的なトラッキングレギュレータの回路です。
高価な部品は少ないので割と安く仕上がると思います。

後になってよく考えてみると、この回路のカレントホギング
(1つのトランジスタに電流が集中する事)防止用の抵抗を
間違えて挿入しています。インバーテッドダーリントンの
場合でもエミッタ側につける必要があります。今回は
電流制限回路があり、1つに電流が集中してもまあ大丈夫
ではないかとは思いますが、真似される場合はご注意を!
それと保護ダイオードも入れてない等の手抜きもある・・・。
回路定数が書いてないのは開けないと分からないため。


熱設計



  リニア式電源で問題となるのは発熱で、放熱対策を
 怠ると半導体が破壊等が発生します。私が設計を行う
 時には熱量を出してから行う事と、熱抵抗から許容損失を
 計算することがあります。今回は後者の方法で行きます。
 計算は左のようになり、最大許容損失はプラスマイナス
 それぞれ9Wと求まりました。次に最大損失を求めます。
 
 このとき通常使用の最大電流、電流制限時の最大損失を
 計算しました。この結果通常使用の最大損失はカバー
 していました。ところが、電流制限時の損失は許容値を
 随分オーバーしてしまいました。これは電流制限が
 定電流方式のため、出力がショートした際に電源電圧と
 電流制限の積で求まる大きな損失が発生するためです。
 
 実験用電源では無いので、連続したショートは負荷が
 故障しない限り起こらないので良しとしましょう。
 数秒程度のショートならそれほど温度上昇は無いですし。


内部配置の決定




  内部配置を検討します。配線はあまり引き回さない方が
 特性上も配線上も良いと思います。今回は前からスイッチ
 ダイオードブリッジ、トランスと電解コンデンサ、回路の
 順に配置しました。また重量のある電源トランスは重量の
 バランスを考え、ほぼ中央に配置するようにしました。
 パストランジスタは直接ケースに取り付けて放熱します。


回路の作成




  回路自体はユニバーサル基板に作ります。トランス等は
 ワット数の大きめのコテが無いとやりづらいと思います。
 半田は無鉛を使用しました。融点が通常より高めなので、
 多少使いづらいです。半田付けは単調作業になりがちだ。


ケースの加工




  内部の配置が決まったら加工に移ります。金属加工は
 電子工作の中で結構大変な工程です。私の場合流れとしては
 ボールペン等で罫書きをし、電動ドリルで穴あけ、ニブラや
 糸鋸で切断、最後にヤスリがけをして仕上げをしています。
 写真はスイッチ穴のヤスリがけをしているところです。


完成

それなりにきれいに仕上がりました。


BTLアンプに電源供給中の模様。



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